私の映画遍歴(1)


「男はつらいよ」シリーズは今では私の大好きな映画になりましたが、元々は洋画ファンでした。

家族で見ていたTVの『日曜洋画劇場』が手ほどき役でしたが、自分でチケット代を払って映画館に通うようになった高校時代から観たい映画を選んで行きました。

 これまでに観た映画の中で1本を選べと云われたら、迷うことなく浪人生時代に観たロック・ミュージカル『ジーザス・クライスト・スーパースター』(以下「JCS」)と答えます。これは単なる映画の枠を超え、私の人生にとても大きな影響を与えた作品だからです。

 JCSはブロードウェイで初演された舞台ミュージカルの映画版で、キリスト最後の7日間を聖書の記述に沿って描きながらも、独自の解釈を加えた斬新さを時には軽快に、時にはソフトバラードのリズムに乗せて表現された作品で、舞台版との決定的な違いは、まさに聖書の舞台であるエルサレムでのロケが敢行されたことです。

 シナリオ自体は聖書に基づくオーソドックスなものながら、中東戦争で使われたジェット戦闘機やセンチュリオン戦車が効果的に使用される演出に、まだ10代の私は度肝を抜かされました。

 しかし物語の底流には、キリスト自身の苦悩や死に対する恐怖、熱狂的な民衆の中で民族の将来を憂うユダの孤独と苦しみが切々と綴られており、極めて真面目な「聖書解釈」だと私は知識不足ながらも感じていたのですが、欧米では熱心な信徒らから「不道徳」とされ、上映反対運動が起きていたと聞くに及び、「権力と宗教」「人権と宗教」について考えさせられることになりました。

 映画を観た翌年、一橋大学に入学しましたが、国立市内での下宿先を探す中で偶々見つけたのが「一橋基督教青年会」が運営する寮でした。寮費の安さに惹かれたものの、入寮条件として「原則としてクリスチャン、ただしキリスト教に関心有る者も可」となっており、当然私は「ただし書き」の対象者として入寮面接を受けました。

 上級生からの質問「君がキリスト教に関心を持つきっかけは?」に、私は「JCSを観たのが契機となり自分なりに聖書の文言を解釈しようと試みた」ことなどを回答し入寮を許可されました。

 文化系のクラブが自主運営する寮だけに、一般的な下宿と異なるのは寮生=部員としてのノルマが存在したこと。それは週1回の「聖書研究会」への参加と毎朝行われる朝拝への出席。後者は前夜の二日酔いなどで休みがちでしたが、「聖書研究会」はゼミナールのような真摯な議論の場で、カソリックとプロテスタントの信徒学生が口角泡を飛ばして討論するのを、ノンクリスチャンの私は興味深く傾聴していました。

 結局、4年間の寮生活の中では洗礼を受けるまでには至らなかったのですが、後年、倉敷で受洗

することになったのは、JCSで出会い寮生活で培われたキリスト教との付き合いが底流となりました。

 つづきはこちら